取締役会は「監督」に徹するべきか ― 「稼ぐ力」の時代のモニタリングモデル
「取締役会は個別の業務執行から離れ、監督に徹するべきだ」。ガバナンス改革の文脈で繰り返されてきたこの主張は、方向性としては正しいものです。しかし、日本企業の現場でこの理想形をそのまま適用しようとすると、しばしば壁に突き当たります。
この問いを考える上で重要な手がかりが、2025年4月に経済産業省が公表した「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」と「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」です。背景にあるのは、コーポレートガバナンス・コードへのコンプライが目的化し、取り組みが形式的な体制整備にとどまっている企業が多い、という率直な問題意識でした。ガバナンスの主眼は、リスクの回避や不祥事の防止だけでなく、「稼ぐ力」――中長期的かつ持続的な収益性・資本効率の向上――の強化にある。この原点が、政策文書としてあらためて明示されたことの意味は小さくありません。
監督に「徹する」ことの誤解
モニタリングモデルへの移行を進めた企業でしばしば起こるのが、取締役会の空洞化です。執行への権限委譲によって議題が減った結果、「取締役会で何を議論すればよいのか分からない」という状態に陥る。ここには、監督を「執行の報告を受動的に聞くこと」と捉える誤解があります。5原則が描く取締役会像は、むしろ逆です。経営陣が構築する価値創造ストーリーに正面から向き合い、議論し、その結果を経営陣に還元し、必要に応じてさらなる検討を促す。監督と執行の分離とは、関与の放棄ではなく、関与の質の転換なのです。
「守りの監督」から「攻めの監督」へ
では、監督の中身とは何か。第一に、戦略の妥当性を問うことです。事業ポートフォリオの組み替えや成長投資の判断が、長期の価値創造につながっているか。第二に、資源配分の検証です。資本コストを意識した経営が、掛け声ではなく実際の投資判断に反映されているか。第三に、経営陣の評価と指名・報酬です。リスクテイクを促す監督とは、失敗を許容する仕組みと、挑戦に報いる処遇の設計でもあります。こうした監督が機能しているかを検証する装置が、実効性評価です。5原則もまた、実効性評価を通じた継続的な評価・検証を求めています。
自社なりの現実解を設計する
重要なのは、モニタリングモデルという「型」の採用ではなく、自社の事業特性・経営チームの成熟度・取締役会の構成を踏まえて、監督と執行の役割分担を具体的に設計することです。権限委譲の範囲と監督側のアジェンダを段階的に拡充していく。その移行を支えるのは、論点を設計し議論を準備する事務局の力でもあります。移行はプロセスです。「監督に徹する」という言葉を目的地ではなく出発点として捉え直すことが、稼ぐ力の時代のモニタリングモデルの現実解だと考えています。