コーポレート・ガバナンスニュース(2021/3/18)

本日は、以下の記事について取り上げます。

1.政策保有株、売却益5割増 今年度1兆円超

2.ESGは業績不振の「煙幕」にあらず 仏ダノンの教訓

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1.政策保有株、売却益5割増 今年度1兆円超

【注目ポイント(記事一部引用)】
上場企業の政策保有株の売却益が膨らんでいる。2020年4月から21年3月16日までの売却益の合計は約1兆500億円となり、20年3月期に比べて5割増になった。株高で売却益が出やすくなっている。今期の売却益はリーマン・ショック後で最大になる公算が大きい。コロナ禍で減少した手元資金の確保に充てる企業も目立つ。

【コメント】
上場企業の政策保有株式の売却益が昨年比で5割増と急増しています。コロナ禍で手元現金の確保を急ぐ企業が多いこともあり、こうした動きは理解できますが、問題はこの資金をどのように活用していくかです。

全体的に、日本企業は利益を内部留保として積み上げたまま、有効な活用ができないという傾向が見受けられます。コーポレートガバナンスコードでも求められている政策保有株式の縮減に関していえば、その本来の趣旨は資本コストを意識した経営の実現であり、政策保有株式を売却しても現金を積み上げ、投資に回さないのであれば意味がありません。

コロナ禍によって業績が悪化している企業であれば、売却益を運転資金にあてることはあるでしょうが、アフターコロナを見越して、多くの企業が変革を迫られている中では、いち早く将来に向けた成長投資に資金を投じていくことが必要です。

 

2.ESGは業績不振の「煙幕」にあらず 仏ダノンの教訓

【注目ポイント(記事一部引用)】
昨年、フランス食品大手ダノンの株主は、同社が正式に「ミッション(使命)を果たす会社」を名乗ることを承認した。この決断は、エマニュエル・ファベール最高経営責任者(CEO、当時)が誇るべき功績だとみられていた。同氏は、環境・社会・企業統治などのESGの観点を重視した経営を推し進める代表的な経営者の一人だ。

【コメント】
ESG投資が一層加速する中ではありますが、だからといって投資先企業の業績の悪化や成長の鈍化を株主・投資家が許容する訳ではないという現実があります。

企業にとっては、相矛盾しかねない「持続的な企業成長とESGとの両立」をどのように行うか、益々中長期的な経営の在り方をどのように描くかが課題となります。

一方で、経営の先行きの不透明感は年々高まっています。2000年代に入ってからでも、アメリカの9.11テロ事件や世界的な金融危機、新型コロナウィルスの蔓延、日本ではこれに加えて東日本大震災もありましたが、数年に一度程度の頻度で、これまでの企業経営の前提が崩れるようなパラダイムシフトに見舞われます。こうした状況から、現代においては中長期戦略を策定することが無用であるとする論調も一部ではあります。

しかし、仮に今後も経営の在り方を揺るがす変化が数年に一度の頻度で生じたとしても、企業は中長期の経営の方向性を明確にしておく必要があると考えます。その際、重要になってくるのは、戦略の策定を経営の執行側だけに委ねるのではなく、監督を担う取締役会で責任を持つことです。元来、執行サイドは特に業績に対して大きな責任を負う立場であるため、より目の前の業績を上げることに注力しがちです。そのため、執行側と非執行側の両面の役員から構成される取締役会が、外部の視点も踏まえた上で、中長期の経営の在り方や戦略について議論していくということが求められます。

このように考えると、取締役会の場が、執行側のチェックだけに留まらず、持続的に企業価値を上げていくために、どのような経営の方向性を目指すのか、そのためにどのような戦略を取るべきかを「議論する場」に変えていくことが必要です。残念ながら、まだまだ多くの日本企業では取締役会が議論の場になっていないケースが多く、その点に課題を感じていない企業も少なくありません。しかし、日本企業の中でも、先行する企業では取締役会の改革を行う企業も出始めており、今後、その他の企業にどの程度こうした動きが広がるか、注目しています。