1. はじめに

2020年9月7日、東京証券取引所は、同年8月14日までに上場企業が提出したコーポレート・ガバナンス報告書に基づき、独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況に係る集計を行い、公表しました。
本稿では、公表データをもとに、現在の独立社外取締役の選任や指名・報酬委員会等の設置状況等について解説します。


公表情報のポイント

・独立社外取締役を取締役会の1/3以上選任している企業は、1部上場企業で初の50%超
・(法定および任意の)指名委員会の設置状況は、1部上場企業で初の50%超
・(任意の)指名委員会で、過半数以上が社外取締役で構成される企業は、1部上場企業で約70%
・(任意の)指名委員会で、委員長を社外取締役が務める企業は、1部上場企業で50%超
・(法定および任意の)報酬委員会の設置状況は、1部上場企業で初の60%超
・(任意の)報酬委員会で、過半数以上が社外取締役で構成される企業は、1部上場企業で約70%
・(任意の)報酬委員会で、委員長を社外取締役が務める企業は、1部上場企業で50%超
・JPX日経400の構成銘柄で、女性取締役が存在するのは70%超、外国人取締役が存在するのは20%

2. 独立社外取締役の選任状況

コーポレートガバナンスコードや2019年の会社法の改正等により、上場企業における独立社外取締役の選任は毎年増加しており、特に1部上場企業においては、2名以上の独立社外取締役の選任が95.3%となっており、事実上ほぼ全ての企業が選任している状況です。
一方、独立社外取締役が取締役会の3分の1以上を占める構成となっている企業は、1部上場企業では58.7%と、初めて50%を超える状況となりました。

3. 指名委員会の設置・委員の構成・委員長の属性

指名委員会の設置については、2018年のコーポレートガバナンスコードの改訂により、事実上設置を義務化することを上場企業に求めるものであり、それ以降急速に設置数が増加しています。
2020年は、1部上場企業においては58.0%が設置しており、初めて50%を超える設置状況となりました。

また指名委員会は単に設置すれば良いのではなく、独立性の高い委員会である必要があり、その構成としては、委員の過半数以上を社外取締役が務めることが求められています。
2020年は、(任意の)指名委員会の過半数以上を社外取締役が務める企業が68.6%となっており、約70%の企業で独立性の高い指名委員会が設置されている状況がうかがえます。

同じく独立の高さを示すものとして、指名委員会の委員長を社外取締役が務めることが望ましいとされています。こちらについては、東証1部上場企業の52.9%が社外取締役が(任意の)指名委員会の委員長を務めています。

4. 報酬委員会の設置・委員の構成・委員長の属性

報酬委員会の設置についても指名委員会と同様に設置が急速に進んでいます。また、役員報酬を巡る企業不祥事が近年相次いだことも影響し報酬決定の透明化を求める動きが活発になっていることや法改正による役員報酬関連の情報開示が強化されたこともあり、より透明性・客観性のある役員報酬の在り方を検討する観点からも、報酬委員会の設置は多くの企業で関心が高まっています。
2020年は、1部上場企業においては61.0%が設置しており、昨年に続き50%を超える設置状況となりました。

また報酬委員会の独立性の高さを示す、委員の過半数以上を社外取締役が務めている企業の割合や社外取締役が委員長を務めている企業の割合は、指名委員会とほぼ同程度の割合を示しています。これは、指名委員会と報酬委員会の委員構成が同じである企業が多いということがその理由として考えられます。

5. 取締役会における多様性の確保

コーポレートガバナンスコードでは、取締役会の議論を様々な観点から行い、その実効性を高めていくために、取締役会における多様性の確保が求められています。
多様性を示す代表例としては、ジェンダーや国籍などが挙げられます。特に近年、株主・投資家からの要望も多く、企業側の関心が高い、女性の取締役の選任状況は、JPX日経400の構成銘柄において72%が選任しています。一方で、企業活動のグローバル化の進展に伴い、外国人社外取締役の選任についても注目が集まりますが、こちらは同じくJPX日経400の構成銘柄において20%と現状ではまだ低水準に留まります

6. おわりに

本稿では、2020年9月7日に東証が公表した独立社外取締役の選任状況と指名・報酬委員会の設置状況について解説しました。

独立社外取締役の選任や指名・報酬委員会の設置は急速に進んでおり、既に「社外取締役が存在すること」や「指名・報酬委員会が設置されている」ことは当たり前という状況であり、その内容が問われます

経済産業省が7月31日に公表した社外取締役の在り方に関する実務指針」では、社外取締役が行うべき取り組みや社外取締役が中心になって運営されることが期待される指名・報酬委員会における役割などについて、あるべき心構えと行動が示されています。下記に解説記事を掲載しておりますので、是非ご一読ください。