コーポレート・ガバナンスニュース(2020/8/6)

本日は、以下の3つの記事について取り上げます。

  1. 「コロナは企業統治テスト」 物言う株主、改革迫る
  2. 「株式持ち合い」は悪くない 日本企業のガバナンスの問題点
  3. フォードCEOが退任へ 6年で3度目、創業家に焦り

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1.「コロナは企業統治テスト」 物言う株主、改革迫る

【注目ポイント(記事一部引用)】
新型コロナウイルスの感染が続く中で開催された3月期決算企業の株主総会だが、投資家は例年以上に厳しい監視の目を企業に向けた。6月総会での機関投資家による株主提案は19社と過去最多だった。物言う株主(アクティビスト)は、株主還元の充実などを求める提案には抑制的になっている一方で、ガバナンスや企業統治での提案を強化。他の投資家からも支持を集めている。

【コメント】
コーポレートガバナンスの強化がテーマとなる背景としては、一つには世界的なESG投資の高まり、そしてもう一つは他の先進国に比べて依然低いままの収益性の向上への圧力が挙げられます。いずれも一過性のものではなく、むしろ今回の新型コロナウィルスの感染拡大により企業活動が大幅に制限され、サステイナブルな経営とは何かがテーマとなる中で、益々これらの重要性は増しています。引き続きアクティビストによる投資先企業に対する経営改善圧力は強まるでしょうし、取締役の選任を巡っては対立する場面も増えるはずです。敵対的買収に対する備えと似ていますが、いざ敵対的TOBを仕掛けられてから慌てて対処しても遅いのと同じように、コーポレートガバナンスもアクティビストから株主提案を受けたり、株主総会で取締役選任を巡って対立する事態に直面する前に、しっかりと取り組んでおく必要があります。

 

2.「株式持ち合い」は悪くない 日本企業のガバナンスの問題点

【注目ポイント(記事一部引用)】
企業の存在理由は、世界の課題解決だと定義する、英オックスフォード大学のコリン・メイヤー教授。日本型のガバナンスに光を当て、新たな企業統治の仕組みを提言する。

【コメント】
日本と世界のコーポレートガバナンスを巡る文脈は全くといっていいほど異なります。日本の場合は、「攻めのガバナンス」と呼ばれるように企業の稼ぐ力を高めるために、コーポレートガバナンスを強化することで「経営者による支配」から本来の「株主による支配」を強化することを目指したものでした。一方、欧米諸国では1980年代以降「株主による支配」が徹底されていたため、日本がここ数年間で取り組んできたようなコーポレートガバナンス改革はその時点で実現されていました。一方、欧米諸国の企業においては「株主による支配」が行き過ぎ、株主至上主義となっていることが現在の最大の問題意識です。株主との利害共有の名の下、多額の株式報酬を経営者に付与し、その結果、経営者が短期的な業績結果を上げることに邁進したことで中長期の企業価値の向上を損なう事態に何度も直面しています(エンロン事件やリーマンショックによる金融危機などもこれらが原因で生じた事案です)。昨年米国の経営者団体による「ビジネスラウンドテーブル」で、株主至上主義から脱却し、従業員・顧客・社会など多様なステークホルダーの利益の最大化を目指すという方針の変更が大きな話題を集めましたが、その理由はこうした長年の問題意識によるためです。米国のこの方針転換を見て、日本では昔から「三方良し」の近江商人の考えが根付いており、日本企業の方が多様なステークホルダーに配慮した経営を行い、世界に先行しているのだと主張する経営者もいますが、それは日本が欧米諸国と比べて周回遅れでコーポレートガバナンスに取り組んでいるため、そのように見えるだけです。いずれにしても、日本と他の先進諸国ではコーポレートガバナンスにおける取り組み内容や問題意識は大きく異なります。その違いを理解した上で、グローバルで競争する企業は日本だけでなく海外の企業の取り組み内容の良い点も取り入れ、コーポレートガバナンスの強化に取り組む必要があります。

3.フォードCEOが退任へ 6年で3度目、創業家に焦り

【注目ポイント(記事一部引用)】
米フォード・モーターは4日、ジム・ハケット最高経営責任者(CEO、65)が10月に退任すると発表した。就任からわずか3年での退任は実質的な引責とみられる。6年間で3度目となるトップ交代には、長引く業績不振への創業家ビル・フォード会長(63)の焦りが透ける。

【コメント】
取締役会が効果的に機能しない限り、CEOサクセッションは成功しません。逆にいうと短期間でCEOが相次いで交代に追い込まれているというのは、CEOの問題よりもそれを選び、経営を任せていた取締役会の責任の方が重いはずです。一時のヒューレットパッカードでも同じように短期間でCEOが相次いで交代する事態に直面しましたが、今回のフォードについても同社の取締役会がうまく機能していないのではないかと危惧します。