コーポレート・ガバナンスニュース(2020/7/17)

本日は、以下の4つの記事について取り上げます。

  1. 日本のESG投資活性化、企業の情報開示充実など重要-日銀論文
  2. アクティビスト、今年上半期は日欧企業への要求強める
  3. 大戸屋HD、コロワイドのTOBに反対表明へ
  4. 企業統治の状況、他社と比較診断 三菱UFJ信託

※記事のタイトルをクリックすると、記事リンク先に移行します

 

1.日本のESG投資活性化、企業の情報開示充実など重要-日銀論文

【注目ポイント(記事一部引用)】
日本銀行は16日、気候変動リスクの高まりとともに世界的に拡大しているESG(環境・社会・企業統治)投資に関し、国際競争力の確保や市場の機能向上・活性化の観点からも、日本企業の情報開示の充実など「日本の機関投資家および企業の双方が、ESG要素などの非財務情報に関する理解を一層深めていくことが重要」とした論文を公表した。

【コメント】
世界的なESG投資の高まりに対して、日本が対応する際の1つが欧米諸国と比べて圧倒的に少ない情報開示の拡大です。しかし、「言うは易く」の典型がこの情報開示で、コーポレートガバナンス関連の情報一つとっても情報開示に苦慮している企業は少なくありません。コーポレートガバナンスコードのフォローアップ委員会の委員を務める、ある著名な経営コンサルタントの方は、「上場企業はスポーツ選手でいえば、オリンピックに出場して金メダルを狙う戦いをしているのと同じなのだから、これくらいの(他国の企業が当然行っているレベルの)情報開示などは、実施できて当たり前」と厳しく指摘しています。コーポレートガバナンスコードの次期改定では、ESG関連情報の開示の強化は予定されていますが、果たしてどの程度まで求められるかに注目が集まります。

 

2.アクティビスト、今年上半期は日欧企業への要求強める

【注目ポイント(記事一部引用)】
投資銀行ラザードのデータによると、アクティビスト(物言う株主)型の投資家が今年上半期、欧州と日本の企業にはさらなる変化を求める一方、米国企業への要求は手控えていたことが分かった。

【コメント】
新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあるのでしょうが、アクティビストが日本を投資機会の宝庫と見ているのは間違いなさそうです。他国に比べて遅れているコーポレートガバナンスの改善、社外取締役の役割の重要性の高まりや企業不祥事への厳しい目など、企業経営に物を言える機会は豊富にあります。問題なのは、こうしたアクティビズムの高まりに対して、日本企業がどう対応するかです。アクティビストとしては、日本の大企業のようにグローバル市場で戦う企業ほど、グローバルスタンダードな経営を求めるでしょう。その一つにコーポレートガバナンスも含まれるはずです。欧米型のコーポレートガバナンスが絶対的に良いと言うつもりはありませんが、今の流れからすると、そちらの方向に向かいつつあるのは間違いなさそうです。

 

3.大戸屋HD、コロワイドのTOBに反対表明へ

【注目ポイント(記事一部引用)】
定食店「大戸屋」を手掛ける大戸屋ホールディングス(HD)は、外食大手コロワイドによるTOB(株式公開買い付け)に対し、反対する方針を固めた。20日に開く臨時取締役会で決議する。大戸屋が対抗姿勢を鮮明にすることで、コロワイドのTOBは敵対的買収に発展することが確実になった。

【コメント】
予想されていたことですが、コロワイドによるTOBに対して大戸屋は正式に反対するようです。これで敵対的買収に発展することは確実ですが、コロワイドの買収価格が非常に高いことから、大戸屋側としてはホワイトナイトを探すのは難しいと思います。MBOやEBOのように非公開化してしまうのも一つの手ではありますが、それでもコロワイドが株を手放さない可能性もあり、なかなか出口が見えない状況です。現状としては、コロワイドによるTOB成立の可能性が高いように思います。

 

4.企業統治の状況、他社と比較診断 三菱UFJ信託

【注目ポイント(記事一部引用)】
三菱UFJ信託銀行は個別企業ごとに企業統治の状況を他社と比べて診断するサービスを始める。上場企業を対象に、取締役会の運営の仕方や社外取締役の選任方法に関するアンケート調査を実施。回答企業に個別の報告書を提供する。自分の会社と事業規模や業種が近い他社との比較ができるようにする。

【コメント】
このサービスの詳細を把握していない中でのコメントになりますが、企業統治状況を他社と比べて診断するサービスというのは、何を目的にしているのでしょうか。コーポレートガバナンスの在り方は企業によって変わりますし、それぞれ独自のコーポレートガバナンスの在り方を築けば良いものです。他社がやっているからとか、他に遅れないようにというのは、コーポレートガバナンスの形骸化にしか繋がりません。実際に、コーポレートガバナンスコードでもComply or explain(遵守せよ、さもなければ説明せよ)と云われるように、必ずしも全てを履行しなければならないわけではありません。コーポレートガバナンスコードの策定に関わった委員の方々が様々なところで述べているように、コードを遵守せずに、うちはこのような方針でやっていると明確に説明できているのであれば、それで構わない訳です。コーポレートガバナンスの状況を他社と比較したところで、その会社のあるべきコーポレートガバナンスは見えてきませんし、今後の取り組み課題も明らかになりません。取り組み内容以上に、なぜこのような取り組みに至ったのか、なぜこうした取り組みを重視しているのか、という思想の部分が重要なのですが、今回のサービスはその点を見落としているような気がします。