「取締役会への出席率」にどのような意味があるのか

先日発売された東洋経済本誌(2020年7月4日号)に「なぜ取締役会に出席しない?-会社側の苦しい『言い訳』」と題する記事が掲載されていました。以下から冒頭のみ閲覧可能です(全文は登録会員のみ)。

なぜ取締役会に出席しない? 会社側の苦しい「言い訳」(クリック後、リンク先に移動)

【記事一部抜粋】
ランキング上位企業への取材からは、知名度重視で選ばれた大物経営者の存在や、出席率が低い取締役への不信感、安易な専門家起用の実態が明らかになった。
出席率が低く、改善の兆しがない取締役には厳しい目が向けられている。例えば、議決権行使助言会社の米ISSは、取締役会への出席率が75%未満になった人については、特段の理由がない限り、再任議案への反対を推奨している。
議決権を実際に行使する機関投資家の間でも、出席率が低いことを理由に再任議案に反対する動きが広がる。

記事では、社外取締役・社外監査役の出席率ワーストランキングを実名で掲載しています(ご本人にとっては不名誉でなことですが)。
議決権行使助言会社のISSは、出席率75%を下回る取締役の選任に反対しており、機関投資家の多くも同調するなど、出席率が低すぎるのは、確かにその関与度合を疑われても仕方ありません。また、そもそも75%以上の出席ができないのであれば、最初から取締役を引き受けるべきではないというのは、その通りとしか言いようがありません。

一方で、「取締役会への出席率」にどのような意味があるのでしょうか。仮に全ての取締役会に出席したとしても取締役としての役割を十分果たしていることの証拠にはならないでしょう。
特に、2015年のコーポレートガバナンスコード施行後、指名・報酬委員会の設置も進み、既に多くの社外役員の活動の場は、取締役会だけに留まりません。仮に関与度を示す指標として「出席率」が重要なのであれば、こうした委員会もその対象に含めるべきと考えます。

また、そもそも出席していても、求められない限り発言を一切しないという社外役員の方も未だに存在します。単に出席率が高いか低いかではなく、どのような活動をしているか、経営に寄与する言動が出来ているか等、その関与の実態を示さない限り、本来の取締役としての責務を果たせているかどうかはわかりません。
ただし、東洋経済の記事でも触れられていますが、他に客観的な評価基準が示しづらいというのは事実です。そのため、現状で他に判断できる情報といえば、各社が自主的に公表している、社外取締役の活動実態や指名・報酬委員会での議論の内容などをコーポレートガバナンス報告書や統合報告書の中から確認することしかありません。

こうした状況を鑑みると、取締役の活動の実態を外から把握することは、なかなか難しいですね。
コーポレートガバナンスコードでは、こうしたリスクも踏まえてなのか、せめて取締役会の活動をしっかりと振り返り、より良いものにしていくために「取締役会の実効性評価」を年に1度実施することが求められています。
取締役会の実効性評価は基本的に「取締役会のあり方や実態」に関する評価として位置付けられているため、評価対象は「取締役会」そのものです。そのため、取締役個人に関する評価は必須とされておらず、多くの日本企業では実施されていません。最近では評価自体を第3者機関に依頼する企業も徐々に増えていますが、その場合もあくまで評価は「取締役会」であり、「取締役個人」の評価を行うケースは極めて少数に留まります。
今後は、できれば取締役会の実効性評価の中に、取締役個人の評価も含めて行い、(さらに欲を言うと)その結果を概要程度で構わないので公表してもらえると、なお良しといったところでしょうか。できればこうした取り組みを企業が自主的に行い、またそうした情報開示を行っている企業が市場から高い評価を得られることが、理想的です。

直近の株主総会でも取締役の選任を巡る株主提案が大幅に増えるなど、取締役が果たす役割の重要性は益々高まっています。2021年には、コーポレートガバナンスコードの改訂が予定されていますが、改定内容の1つとして、取締役の活動実態を示す情報開示が強化される可能性は決して少なくないと予想しています。