コーポレート・ガバナンスニュース(2021/3/11)

本日は、以下の記事について取り上げます。

1.取締役会改革、着地点を示せ

2.企業統治指針 残る課題(下)親子上場の是非問わず

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1.取締役会改革、着地点を示せ

【注目ポイント(記事一部引用)】
社外役員の基準人数が漸進的に引き上げられてきた。最初は監査役の半数以上、次に取締役の少なくとも1人、その次は2人以上。徐々に引き上げられ、必要人数をどのように確保するかが企業側の対応の中心課題となってきた。

【コメント】
記事の主張についての賛否は保留しますが、ここで指摘されているように、社外取締役比率が高まることによって、取締役会の性質が変化しているのは事実です。

従来のように、社内取締役、つまり業務執行を兼ねた取締役が取締役会の全構成員を占めていた状態では、実施的に「経営の監督機能」は備わっておらず、もっぱら「経営の執行」における議論がその多くを占めていました。その後、徐々に社外取締役比率が高まってきたことで、「経営の監督機能」が意識されてきていますが、経営の監督とは何をすることなのか、を明確に理解し、取り組めている企業は思った以上に少ないのではないかと思います。

経営の監督を「問題がないかどうか、確認する」ことと捉えると、法令順守や社会規範からの逸脱がないかなど、経営陣の監視という側面が強調されます。もちろん、経営の監督にこうした側面は備わっていますが、それだけではありません。たとえば、「将来の事業環境を想定し、今後の事業ポートフォリオはどのようなものであるべきか」や「社会や環境の変化を踏まえて、将来の経営リーダーにどのような役割や要件が求められるか」など、戦略的なテーマについて議論し、方向性を示すことも経営の監督には含まれます。

意識のどこかで、社内事情に精通しない、事業のことも十分に理解していない、社外取締役にこのようなことは期待できないと思い込み、あきらめている経営者は少なくないのではないでしょうか。一方で、グローバル企業の取締役会は、CEO以外はほぼ全員が社外取締役で構成されるにも関わらず、なぜ適切な意思決定が可能となるのでしょうか。

現在進行している取締役会の性質の変化を前向きに捉え、取締役会をどのような場にするべきかを改めて定義し直すためには、こうした日本企業とグローバル企業の取締役会における差異が、何が理由で生じているかを丁寧に検証する必要があります。そのことが自社にとってのコーポレートガバナンスのあり方を見直すきっかけにもなると思います。

 

2.企業統治指針 残る課題(下)親子上場の是非問わず

【注目ポイント(記事一部引用)】
金融事業を完全子会社にしたソニーは4月、ソニーグループに社名を変える。人工知能(AI)による自動車保険のリスク診断や顧客データの分析などソニーの技術力を金融事業にも応用する。

2019年に他の事業と関連が薄いとして米サード・ポイントから金融事業を売却するよう圧力を受けた。しかし、社外取締役が8割を占める取締役会は全会一致で完全子会社化と社名変更を決めた。金融子会社ソニーフィナンシャルホールディングスの非上場化で、配当として外部に流出していた利益を確保し、純利益は年400億~500億円増える見込みだ。

【コメント】
一昨年のヤフー・アスクル問題のように、親子上場企業を巡るコーポレートガバナンスは、制度的な欠陥を未だ是正できておらず、少数株主の権利保護の観点では課題が多いと思います。

間もなく改訂予定のコーポレートガバナンスコードでは、親子上場企業などのグループガバナンスの在り方について、通常の上場企業に比べてより厳格なガバナンス基準が求められる予定です。記事にあるソニーのように完全子会社にする企業や日立製作所のように他社への売却を進める企業など、親会社にとっては子会社が上場を維持し続ける明確な理由がない限り、いずれにしても整理を進めることになります。

今後親子上場企業の数自体は減るものの、一方で上場子会社に対して一定の理解を示す考えも根強く存在することを考えると、恐らく欧米に比べて高い水準で一定数は残るものと思います。