コーポレート・ガバナンスニュース(2021/3/10)

本日は、以下の記事について取り上げます。

1.社会課題に向き合う経営、長期成長への道

2.企業統治指針 残る課題(上)社外役員、数も質も

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1.社会課題に向き合う経営、長期成長への道

【注目ポイント(記事一部引用)】
新型コロナウイルス危機であらわになった社会の分断。企業が目先の利益だけでなく社会課題にもいかに向き合うか、消費者は問うようになってきた。高い倫理性が求められるなか企業経営者は何を考え、どう動くべきなのか。早稲田大学大学院の入山章栄教授(経営学)に聞いた。

【コメント】
インタビューの最後で触れられているように、欧米では経営者と従業員との報酬格差が問題となっております。こうしたことも背景として、企業には役員と対従業員との報酬差を示す「ペイ・レシオ」の開示が強化されると共に、株主総会において水準の妥当性に対して株主が意見表明を行う「セイ・オン・ペイ」が採用されています。

日本では業績連動報酬の導入が低かったこともあり、欧米の役員報酬とは大きな格差がありました。しかし、昨今は特に大企業を中心に、短期・中長期の業績連動報酬の導入が進み、報酬総額も年々増加傾向にあります。

企業価値を上げ、それに応じて高い報酬を役員が受け取ることは合理的ではありますが、一方で従業員とのバランスをどうか考えるかは、今後課題になると思います。企業によってもちろん千差万別ですが、従業員の報酬水準がここ10年、大きな変動がなく、むしろ税負担が増していることを考えると手取り収入が目減りしているという企業も決して少なくありません。

こうした状況で、役員だけ大幅に報酬を上げていくということに納得感を持たせるのは困難であり、欧米企業のように従業員との報酬差の問題が顕在化される前に、対策を行っておくことが必要だと思います。例えば、ガバナンスコード等で「ペイ・レシオ」の開示を求めることなどは、有効な手です。

 

2.企業統治指針 残る課題(上)社外役員、数も質も

【注目ポイント(記事一部引用)】
金融庁と東京証券取引所は3月にも上場企業に適用するコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を3年ぶりに改定する。柱のひとつは取締役会の多様性の追求だ。指針は主要企業に取締役会の3分の1以上を社外人材で構成するよう促す。形式的な数合わせではなく、「質」も確保して成長につなげられるかが課題だ。

【コメント】
「取締役会の機能発揮」は、コーポレートガバナンス・コードの次期改訂の重要なテーマです。社外取締役比率を高める、取締役の属性やスキルなどの多様性を可視化したスキルマトリックスの開示を求める、指名・報酬委員会の実効性を上げるなど、狙いはわかりますが、外形的な要件だけを強化したものの、中身が伴わないものにならないかどうか、改訂前から懸念の声がきこえています。

筆者が取締役会の機能強化に対して有効だと考えるのは、コーポレートガバナンスコードでも実施が求められている、取締役会の実効性評価に対する実施の強化とその結果の詳細情報の開示です。

多くの企業で、取締役会の実行評価を形だけ実施しているというケースが目立ち、その情報開示も抽象度が高い記載に留まるため、外部からみたときに、果たしてその企業の取締役会がどのような状態なのか、全くわかりません。

取締役会の実行性評価は、PDCAでいうと「C(Check)」であり、将来の取締役会の「A(Action)」に大きな影響を与えます。先述のように、現行のコーポレートガバナンス・コードでも取締役会の実効性評価は実施が求められていますが、まだまだ取り組みの改善余地はあると思います。たとえば、本来の意図である「C(Check)」として、どのようなチェックを行うべきか、より具体的にコードまたは実務指針で示すと共に、開示情報についてもその項目やどの程度の粒度で情報開示するべきかを、より明確に定義するべきだと思います。

なお、取締役会の実効性評価の対象は、取締役会とそれに紐づく法定・任意の委員会が含まれるため、指名委員会や報酬委員会も対象となります。役員の選解任、報酬決定や評価の妥当性の重要性が高まっているのであれば、こうした指名・報酬委員会までを含めた取締役会の実効性評価を強化することが、最も効果的だと考えますが、いかがでしょうか。