コーポレート・ガバナンスニュース(2021/1/28)
本日は、以下の記事について取り上げます。
1.ブラックロック、投資先に「温暖化ガスゼロ」計画要請
2.ソフトバンク、禅寺から来たCTOに託す「脱通信」
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1.ブラックロック、投資先に「温暖化ガスゼロ」計画要請
【注目ポイント(記事一部引用)】
世界最大の資産運用会社、米ブラックロックは26日、温暖化ガスの排出量を差し引きでゼロにする「カーボンニュートラル」に向けた事業戦略を開示するよう、投資先企業に求めると発表した。開示や対策が不十分な企業に対しては、株主総会で取締役に反対票を投じる可能性がある。日本企業も対応を迫られそうだ。
【コメント】
今回のブラックロックの動きをみると、カーボンニュートラルに向けた事業戦略の開示や取り組みが不十分とされる投資先企業に対しては、取締役選任に反対票を投じる可能性にまで言及しており、いよいよ気候変動関連事項に対する企業側の取り組みの本気度がシビアに問われるようになりそうです。日本企業においては2020年のみずほフィナンシャルグループの株主総会において、初めて気候変動に関する株主提案がなされました。結果は否決でしたが賛成票が30%以上も集まっています。昨年以降の企業のESGに対する取り組みがより一層厳しく注視される状況になったことを鑑みると、2021年はより同様の株主提案数の増加が予想されます。
2.ソフトバンク、禅寺から来たCTOに託す「脱通信」
【注目ポイント(記事一部引用)】
ソフトバンクグループの携帯子会社、ソフトバンクが社長交代を決めた。新社長に指名されたのはCTO(最高技術責任者)を兼ねる宮川潤一副社長(55)。グループの総帥である孫正義氏(63)の信頼が厚く、側近の中でも数少ない「孫氏にモノが言える人物」として知られる。グループの中核企業を託された宮川氏は、たった一人でのし上がってきた異色のキャリアの持ち主だ。
【コメント】
以前から様々な識者が指摘しているように、ソフトバンクグループやユニクロのような創業経営者が率いてほぼ一代で大企業へと成長した企業における、最大の経営リスクは、後継者問題です。海外の創業経営者が率いる企業においても同じ問題は抱えますが、アップルやグーグルの事例をみていると、創業経営者からのサクセッションプランを考えるヒントが見えてきます。
まず、アップルです。スティーブ・ジョブズの後任のCEOであるティム・クックは1998年にアップルに入社し、セールスやオペレーションの経営幹部を務めた後に2011年にCEOに就任しました。入社からCEO就任までは13年となっています。
続いてグーグルです。現在CEOを務めるサンダー・ピチャイは2004年にグーグルに入社し、Google Chromeなどのプロダクトマネジメントに携わるなど、幅広い経験を積んだ後、2015年にCEOに就任しています。入社からCEO就任までの期間は11年です。
経営人材の流動性が高く、外部からの登用が多い海外企業であるアップルやグーグルにおいても、創業経営者の後任には自社で10年以上経験を積んだ内部人材を登用していることがわかります。
創業経営者からのサクセッションプランの成功難易度が高いとされるのは、一般的に以下の事象が生じがちだからです。
・創業経営者自身と後任CEOに経営者としての力量に大きな差がある
・上記が理由で、創業経営者自身(や株主などの関係者)が満足できず、退任後に再び創業者が復帰してしまう創業経営者の後任として自社で10年以上の経験を積んだ内部人材を登用する場合、創業経営者は良くも悪くも後任CEOの力量をよく把握しています。強みも弱みもわかっているので、ある程度経営者としてどのような結果を出せそうかを事前に見極めることが可能です(裏返せば、自分と同じ成果は期待できないという諦めもできます)。そのため、極端に期待レベルを外す可能性は低くなると考えられます。外部から後継CEOを招聘することと比べると、格段に引き継ぎのリスクは減ることでしょう。
翻って、今回のソフトバンクの社長人事は、宮川副社長が20年以上ソフトバンクに勤務していること、長年グループのトップである孫正義氏の非常に近いところで仕事をしてきたことなどから、孫氏からすると、良くも悪くも社長としてどの程度の成果を出せそうか、見通しは立てやすいと思います。同じ理由で、宮川氏からしても孫氏の期待レベルがどこにあるかは熟知しているはずです。
今回は、ソフトバンクグループの中核子会社であるソフトバンクとしての社長人事ですが、今後宮川氏がソフトバンクの社長として大きな成果を出した場合には、ソフトバンクグループのCEOの有力な後継者候補となることが予想され、そうした意味でも今回の人事の行方は注目に値します。