コーポレート・ガバナンスニュース(2020/9/30)

本日は、以下の4つの記事について取り上げます。

  1. 花王社長に長谷部氏 8年ぶり交代 新事業拡大目指す
  2. ドコモ新社長に井伊氏、改革に期待
  3. 英投資信託業界、女性取締役は増えるも…
  4. ソニーのESG経営、コロナで問われる「存在意義」

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1.花王社長に長谷部氏 8年ぶり交代 新事業拡大目指す

【注目ポイント(記事一部引用)】
花王は29日、長谷部佳宏専務執行役員(60)が2021年1月1日付で社長に就任すると発表した。沢田道隆社長(64)は代表権のない会長になる。花王の社長交代は8年ぶり。研究開発の経験が豊富な長谷部氏のもと、技術力をいかした事業領域の拡大を目指す。

【コメント】
花王が8年ぶりとなる社長交代を発表しました。花王は、日本取締役会協会が主催する「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」で2018年の大賞を受賞するなど、そのコーポレートガバナンスの取り組みが高く評価される企業です。今回の社長交代に際しては、指名委員会に該当する「取締役選任審査委員会」と取締役会の議論を経て決定されているとのことですが、この取締役選任審査委員会は委員には社内メンバーが存在せず、社外役員(取締役・監査役)だけで構成される高い独立性を備えた委員会のようです。社長選任に関する議論の詳細はわかりませんが、花王では2003年からこの委員会の前身となる委員会を立ち上げており、既に20年近い取り組みの実績があります。そのため、社外役員だけで構成される委員会であっても十分に次のCEO選びの検討を行えるような基盤が出来ているのだろうと推察します。

2.ドコモ新社長に井伊氏、改革に期待

【注目ポイント(記事一部引用)】
NTTドコモの新社長に就任する井伊基之副社長は親会社のNTT出身だ。持ち株会社や東日本事業会社などでの法人営業やネットワーク担当など幅広い経験を強みとする。今夏、NTTの澤田純社長からトップ昇格を打診されたという。

【コメント】
NTTによる完全子会社化が発表されたNTTドコモですが、同じタイミングでNTT出身の井伊副社長が新社長に就任されるとのことです。記事の中で一つ気になったのが、以下の部分です。

「今夏、NTTの澤田純社長からトップ昇格を打診されたという。」

NTTドコモはNTTと親子上場関係にあり、そのコーポレートガバナンスは一般の上場企業以上に厳しいものが求められます。ところが、親会社の社長からの指名で次期社長への就任が事実上決まったかのように、あえて言及されているところからは、こうした高いレベルのコーポレートガバナンスを求められていることへの意識が希薄なように見受けられます。実際にドコモは指名委員会も未設置です。NTTからすると、親子上場にある企業とはいえ完全子会社化するのだから、親会社の社長が指名して何が悪いということなのかもしれませんが、株主からは異論が出てもおかしくない新社長の選任プロセスのように見えます。

 

3.英投資信託業界、女性取締役は増えるも…

【注目ポイント(記事一部引用)】
かつて男性中心のクラブのようだった英国の投資信託業界に女性が取締役会のメンバーとして招かれることはほとんどなかった。ここ10年で女性の取締役は増えているが、取締役会の構成にはまだ少々問題がある。取締役探しは相変わらずおなじみの候補が中心だ。

【コメント】
取締役会の多様性を巡る議論は、日本がコーポレートガバナンス改革の取り組みとして参考にしたイギリスでも同様のようです。記事の以下の箇所からは、女性取締役を巡る状況が日本と同様に対象者が限られている現状を示しています。

「米MSCIは全上場企業を対象に調査をし、最近発表した報告書の中で、女性取締役の22%が3社以上の取締役を掛け持ちしており、男性の比率の2倍近いと指摘した。」

取締役の掛け持ちが問題になるのは、それだけ1社あたりに掛けられる時間的・質的コミットメントが下がるリスクがあるからです。女性取締役の方が取締役の兼務が多いということは、仮に男女間で同じ能力だったとしても、女性取締役の方が、それだけ1社あたりへのコミットメントが低いとみなされるリスクが高まります。ひいては、そうしたことと差別意識とが相まって、女性取締役の資質を疑問視する動きにつながりかねないところが怖いところです。対策として、中長期的には少しずつでも候補者人材の全体数を増やす取り組みが欠かせません。しかし、短期的にはなかなか事態は改善しづらいと思います。

 

 

 

4.ソニーのESG経営、コロナで問われる「存在意義」

【注目ポイント(記事一部引用)】
ソニーがESG経営を加速している。新型コロナウイルスに苦しめられている人々への支援策を矢継ぎ早に打ち出したほか、環境対策では5年ごとの中期目標を掲げることで2050年の負荷ゼロをめざす。19年に掲げた「パーパス(存在意義)」が事業側にも意識改革をもたらし、巨大企業を突き動かす推進力となっている。

【コメント】
コロナ禍において企業の持続的な成長が改めて問われる中で、ESG経営に更に力を注ぐソニーのこうした活動は日本企業の中では際立っています。お題目としてだけでなく、役員の評価と報酬にもESG要素を取り入れるなど、その取り組みは他の日本企業にとっても大変参考になる好事例だと思います。