コーポレート・ガバナンスニュース(2020/6/13)

本日は、以下の3つの記事について取り上げます。

  1. 物言う株主、企業統治重視 中長期の成長促す
  2. 26日総会の天馬、取締役案で株主と対立 双方の主張は

  3. コロナと総会(3)持ち合い株 株下落、批判の目厳しく

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1.  物言う株主、企業統治重視 中長期の成長促す

【注目ポイント(記事一部引用)】
3月期決算企業の株主総会が11日のトヨタ自動車から本格化した。今年は新型コロナウイルスの感染拡大で事業環境が激変しており、企業に積極的な提案を行う「物言う株主」は短期的な利益還元ではなく、中長期的な企業価値向上につながるコーポレートガバナンス(企業統治)改善を重視する姿勢を鮮明にしている。

【コメント】
先日、ストラテジックキャピタルが同社の投資先企業の株主に対して、同社の株主提案に賛成するよう呼びかける広告を掲載し、話題を呼びました。

*下記のリンクをクリックすると掲載された広告が表示されます
京阪神ビルディング、蝶理、東レ、淺沼組、極東貿易 及び 世紀東急 の株主の皆様へ

アクティビストファンドが、機関投資家だけでなく一般の個人株主に対してもこのようなキャンペーンを展開するということは、10年前では考えられない状況です。当時は、アクティビスト=企業の乗っ取り屋という図式が一般的で、企業広告を打ったところでほとんどが無視されたことでしょう。今年の株主総会におけるアクティビストからの株主提案は過去最高件数とのことですが、特徴としては、その提案内容が従来の還元策重視型からガバナンス改善などの経営改善型へ移行しつつある点です。今年の株主総会は間もなくその開催のピークを迎えますが、引き続きアクティビストからの様々な改善提案は今後も増加し続けると思います。

 

2. 26日総会の天馬、取締役案で株主と対立 双方の主張は

【注目ポイント(記事一部引用)】
プラスチック製造の天馬が6月26日の株主総会を前に取締役の選任を巡って揺れている。端緒は2019年に発覚したベトナムでの贈賄事件だ。創業家で元名誉会長の司治氏は、事件の一因は現経営陣にあると主張。会社側は取締役ではない司氏が再発防止策に関連し、人事に不当に介入したと訴える。双方が「企業統治の改善」に向けて取締役候補をたて、株主に賛同を呼びかけている。委任状争奪戦に発展する可能性が高い。

【コメント】
今年の株主総会の注目事案の一つが、この天馬の経営権争いに関する問題です。本件は取締役の選任についての基準やその妥当性を問う事案としても興味深いですし、日本企業における創業家の経営への関与という観点からも様々な示唆が得られます。インタビューの中でも触れられていますが、日本企業では、オーナー企業の場合、創業家の意向が反映されやすく、社員が創業家の意向を忖度する傾向は確かにあると思います。これがプラスの効果を生むこともあります。たとえばエーザイやオムロンのように創業家が経営の中心にいることで、安定して企業価値を高めている例は決して少なくありません。一方、今回の天馬のように創業家の影響力が企業価値を損なう結果に繋がっているケースも残念ながら一定数存在します。この場合、創業家が心変わりをしてくれれば良いのですが、多くの場合は創業家を完全に経営から外すという選択肢しか有効な手立てはないようです。実際、昨年、話題を集めたLIXILの経営権争いも創業家であった潮田氏を経営から完全に排除する形でしか事態は収束しませんでした。このように創業家がプラス・マイナスの両面で多大な影響力を発揮する以上、それをどのようにコントロールするかが、オーナー企業のガバナンス設計の重要な論点となります。

 

3. コロナと総会(3)持ち合い株 株下落、批判の目厳しく

【注目ポイント(記事一部引用)】
近年の株主総会のテーマの1つが企業の政策保有株、いわゆる持ち合い株だ。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の2018年改訂で解消への方針開示を求められ、19年3月期には有価証券報告書での開示対象が広がり解消は進んだものの、なお残る。新型コロナウイルス問題による市場動乱で保有リスクが意識され、批判の目は厳しくなっている。

【コメント】
政策保有株については、2015年のコーポレートガバナンス・コードが施行された時点では、その保有方針の明確化を上場企業に求めていましたが、2018年のコードの改訂に伴い、政策保有株の「縮減」が求められるようになりました。基本的に、よほどの事情でない限り、政策保有株の解消の方針が決まったわけですが、中でも特に影響が大きかったのは取引先の金融機関が保有株式の解消に動いたことといわれています。これにより、既に役割を終え、実質的に機能していなかった「メインバンク・ガバナンス」が更に影響力を失うことにもつながりました。株の持ち合い解消により、これまで軽視されていたその他の株主の影響力が高まり、経営に緊張感が生まれるという点を踏まえると、大多数の株主・投資家からするとメリットしかありません。今後も経済合理性のない政策保有株式の解消は進むでしょう。