コーポレート・ガバナンスニュース(2020/6/12)

本日は、以下の7つの記事について取り上げます。

  1. 勢い増す「環境アクティビズム」 NPOと投資家が共闘
  2. 変容する米企業の 株主第一主義 幅広いステークホルダー 重視姿勢に転じる米企業
  3. コロナと総会(1) 物言う株主提案 最多22社 還元策より統治に比重 社外取の独立性や情報開示の強化

  4. 黒人差別問題の企業対応、投資家注目 ESGが後押し

  5. 株主総会が本格化 各社、来場自粛要請やお土産廃止

  6. 銀行OB役員、物言う株主が「NO」 会社の私物化懸念

  7. JR九州株主総会 ISSが米ファンド提案 一部支持

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1. 勢い増す「環境アクティビズム」 NPOと投資家が共闘

【注目ポイント(記事一部引用)】
日米企業の株主総会で環境関連の株主提案が支持を得るようになってきた。ESG(環境・社会・企業統治)投資の拡大が背景にある。投資家と環境問題などに詳しいNPOが接近し、環境版のアクティビスト(物言う株主)が生まれつつある点も見逃せない。

【コメント】
記事で述べられているように、今年の株主総会ではJPモルガン、エクソンモービル、シェブロンといった名だたる企業への環境関連の議案が話題を集めています。記事では、ESG投資をより重視している機関投資家と環境NGOとの結びつきを示唆し、今後同様の動きがさらに加速する可能性を指摘しています。日本でも同様の動きは今後出てくる可能性はありますが、ESGのうちEやSよりもまずはG(Governance)というのが海外企業の例からも明らかであり、この点、日本企業ではまだG自体が不十分と指摘されることが多いのが実情です。そうした背景も考えると、コロナ下であっても、引き続き、ガバナンスに関する取組みの強化と情報開示は日本企業でさらに進むことでしょう。

 

2. 変容する米企業の 株主第一主義 幅広いステークホルダー 重視姿勢に転じる米企業

【注目ポイント(記事一部引用)】
米国流の資本主義が地殻変動を起こしている。長らく米企業の行動規範となってきた「株主第一主義」の経営に、見直しの動きが出ているのである。米経済団体ビジネス・ラウンドテーブルは2019年8月に、米国の経済界は株主だけでなく、従業員や地域社会などすべてのステークホルダー(利害関係者)に経済的利益をもたらす責任がある、とする声明を発表した。声明には、会長を務めるJPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)を含め、180を超える主要企業のトップが署名をしている。

【コメント】
昨年大きな話題をよんだ、この株主第一主義からの脱却ですが、記事の中でも指摘されているように、日本企業のコーポレートガバナンス改革の方向性を変えるかというと、そうではないと思います。この記事が発表された昨年の12月以降、特に現在では、新型コロナウィルスによる企業業績への悪化への懸念にもかかわらず、むしろ日本企業のコーポレートガバナンスはより株主を意識した取組が加速しているように思えます。コーポレートガバナンス関連のコンサルティングに対する弊社への問い合わせやご相談も以前に比べ増えておりますが、その内容やご依頼の背景をうかがうと、株主や機関投資家からの要請や指摘がきっかけになっているものが多い印象です。今後もこの流れは当面続くと思います。

 

3.コロナと総会(1) 物言う株主提案 最多22社 還元策より統治に比重 社外取の独立性や情報開示の強化

【注目ポイント(記事一部引用)】
トヨタ自動車が11日に株主総会を開き、2020年3月期企業の総会シーズンが本格化する。活発な物言う株主(アクティビスト)の提案を受けた企業は過去最多の22社に達した。新型コロナウイルスの影響で、要求の比重は還元策から社外取締役の独立性や情報開示の強化といった統治体制に移った。開催日程や方式などにも余波が及んだ今年の焦点を解説する。

【コメント】
新型コロナウィルスの影響により、アクティビストの提案内容も従来の株主還元策から社外取締役の選任等のガバナンス関連へと変化がみられるとのことです。社外取締役の選任に関しては、企業側の選任案に独立性や資質に明らかな懸念があるときには、株主提案も一定の説得力を持つと思います。しかし、多くの場合は会社側と株主側とで社外取締役に何を求めるかという点から食い違っていることが多いのが実情です。最近では取締役に求める要件をスキルマトリックスで整理する例も増えていますが、スキルマトリックスの公開だけでなく、そもそも、なぜその要件が必要と考えるかという点が、今後は多くの企業で問われるのではないでしょうか。

 

4. 黒人差別問題の企業対応、投資家注目 ESGが後押し

【注目ポイント(記事一部引用)】
米国では黒人差別に反対する抗議活動が続き、経営者が相次いでこうした活動を支持する声明を出している。長年、企業に対して株主還元だけでなく、「ESG(環境・社会・企業統治)」に配慮した経営を求める流れを追ってきた人であれば、こうした経営者の発言を上っ面な言動だと皮肉りたくなるだろう。

【コメント】
米国から端を発した一連の人種差別問題への抗議活動について、企業も連帯を示す動きが徐々に広がっています。こうした企業側の動きが単なるアピールに留まらず、その本気度をより具体的に示すことが、今後求められるでしょう。記事にもある通り、そうした動きの1つとして、アマゾンへの有色人種に対する偏見や不当な扱いが問題視されている顔認証システムの変更要求があります。今後はこうした人種差別や偏見に繋がる可能性がある施策については、企業側にその意図がなかったとしても、より厳しい視線が集まることは必至です。コーポレートガバナンスの観点では、取締役会にはこうした人種差別に繋がる施策が、自社の中で存在しないかを改めて確認するだけでなく、未然に防止する仕組みの整備が求められると思います。

 

5. 株主総会が本格化 各社、来場自粛要請やお土産廃止

【注目ポイント(記事一部引用)】
3月期決算企業の株主総会シーズンが本格化する。今年は新型コロナウイルスの感染を防ぐため、多くの企業が株主に来場を自粛してインターネット経由の参加を求めている。11日にトヨタ自動車が愛知県内で開いた総会も、会場の出席者は例年の10分の1以下。豊田章男社長は「リーマン・ショックを上回るコロナ危機が世界を襲った」と述べた。

【コメント】
本格的に株主総会シーズンを迎えますが、新型コロナウィルスの影響について足元の業績予想だけでなく、より中長期の自社の経営や事業の在り方について多くの企業で質問が相次ぐでしょう。その中にはコーポレートガバナンスの取り組みも含まれます。今年は株主提案にもガバナンス関連テーマが目立ちますが、各社がどのように対応するか、その動向を注目しています。

 

6. 銀行OB役員、物言う株主が「NO」 会社の私物化懸念

【注目ポイント(記事一部引用)】
旧村上ファンドの元幹部が突きつけた株主提案が波紋を広げている。関西を地盤とする京阪神ビルディングの社内取締役の過半を親密銀行のOBが占めており、企業統治がゆがめられていると指摘したためだ。「物言う株主」の提案はメインバンクを中心とした日本型の金融慣行に変革を迫る可能性を秘めている。

【コメント】
ストラテジックキャピタルが指摘しているように、取引銀行出身者で社内取締役の過半が占められている京阪神ビルディングの状況には、いびつさを感じます。取締役の選任に関しては、そのプロセスや実情をみると、現経営陣の友人・知人、またはその紹介というケースが圧倒的に多いのではないでしょうか。もちろん全く知らない人を連れてくる訳にはいかないでしょうが、今後はこうした選任の理由やプロセスについても、客観性と妥当性が求められると思います。海外企業では社外取締役候補者の選任自体も指名委員会やガバナンス委員会などで検討するというのが一般的です。

 

7. JR九州株主総会 ISSが米ファンド提案 一部支持

【注目ポイント(記事一部引用)】
米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は11日までに、JR九州が23日に開く株主総会で、米投資ファンド、ファーツリー・パートナーズが株主提案している取締役候補3人のうち、2人の就任に賛成するよう、株主に推奨した。JR九州はこれについて反対の意向を表明している。

【コメント】
こちらも社外取締役の選任に関しての会社側と株主側の対立に関するニュースです。取締役の選任に関しては、何をもって社外取締役としての資質があるのか、最適な人選だと考えるかを、本来は会社側が明確に説明しなければなりません。しかし、多くの場合で、「豊富な企業経営の実績を持つことから当社経営にも貢献頂けると考え、○○氏を社外取締役候補者に選任しました」というような、抽象的な選任理由に留まるケースが非常に多いのが実情です。
「取締役に何を求めるか」、「そして候補者はなぜ選任に値するか」、答えるべきはシンプルな内容ですが、取締役会で、こうしたことをしっかりと議論している企業は意外にまだまだ少ないのかもしれません。