コーポレート・ガバナンスニュース(2020/6/10)
本日は、以下の6つの記事について取り上げます。
- 社外取締役、監視役から経営の主役へ 幅広い専門性カギ
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日産の井原氏「社外取、方針策定や環境整備も役目」
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エーザイの角田氏「ESG戦略で社外取が主体に」
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新型コロナが試すガバナンス、買収防衛維持に厳しい目線
- 世代交代が生む創業家発「内紛」 天馬で委任状争奪戦へ
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オムロン元社長が遺した心得「成長はESGにあり」
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1. 社外取締役、監視役から経営の主役へ 幅広い専門性カギ
【注目ポイント(記事一部引用)】
社外取締役が担う役割が広がりつつある。上場企業の全取締役に占める社外取の比率が初めて3割を突破。株式市場では量だけでなく質も重視する声が目立つようになったためだ。コロナショックという未曽有の事態が重なる中、経営方針の追認や監視など従来の役割に加え、積極的に経営に関わろうとする動きも出始めている。
【コメント】
2015年のコーポレートガバナンス・コードの施行をきっかけに、上場企業では2名以上の社外取締役の選任が進みました。記事にあるように、現在では上場企業において全取締役のうち3割以上を占めるまでに増加しています。元々、日本の取締役会は、社内の業務執行取締役が大多数を占め、本来株主の代理人である取締役の意見よりも現執行側の経営陣の意見が色濃く反映されているのが特徴的でした。日本のガバナンスの在り方を「経営者支配」と評される理由でもあります。そうした中で、絶対数が増えてきた社外取締役が単に監視や外部からの客観的意見のアドバイスの提供に留まらずに、当該企業の意思決定権者として関与するのは総じて良いことと思います。ただし、それに伴い当然社外取締役の企業経営への関与度は従来に比べて量・質の両面で高いコミットメントが求められます。以前、多くの企業で見られたように、月1回数時間程度の取締役会に参加すれば良いということにはもはやならないでしょう。実際に私が支援している1部上場企業の社外取締役は、少なくとも1か月間で10日程度は当該企業の仕事に関与しているとのことです。こうした高いコミットメントをもって社外取締役を務められる方もそう多くはないのが実情と思います。これからの数年間で社外取締役の入れ替えも一部の企業では進むと思います。
2. 日産の井原氏「社外取、方針策定や環境整備も役目」
【注目ポイント(記事一部引用)】
日産自動車は2018年11月に元会長のカルロス・ゴーン被告による役員報酬の虚偽記載、会社経費の不正支出が発覚し、ゴーン氏が逮捕された。19年9月には西川広人元社長兼最高経営責任者(CEO)の報酬不正問題に揺れ、企業の信用が失墜した。企業統治立て直しで中心的役割を果たした井原慶子社外取締役は「社外取には執行の監督、中長期の方針策定、環境整備などの役割が求められている」と話す。
【コメント】
カルロス・ゴーン氏の逮捕以降、日産ではコーポレートガバナンス不全が厳しく指摘されてきました。そうした中で社外取締役としては、まずは目の前の出血を止める、不祥事を再発させない、経営陣に対する監督機能を高める・・・などを中心に取り組んでこられたのだと思います。モニタリング型のガバナンス体制をまずは強化したのでしょう。ここまでは良いのですが、そうこうしているうちにコロナウィルスによって、再び経営の足元が揺らいでいます。直近に行った今期の業績見通しも予想を超える低迷を露わにしました。自動車業界全体がCASEに代表されるように、100年に1度の大変革期にあります。こうした中で、今後日産の経営をどのように行っていくか、取締役会のあり方もモニタリング型から戦略型・ビジョン型へと変えていく局面にあるように思います。
3. エーザイの角田氏「ESG戦略で社外取が主体に」
【注目ポイント(記事一部引用)】
社外取締役への監視の目が厳しくなる中、投資家との対話に力を入れているのがエーザイの角田大憲社外取締役だ。角田氏は「株主だけでなくあらゆるステークホルダーの目線に立った中立な社外取だからこそ、ESG(環境・社会・企業統治)を推し進めることができる」と強調する。
【コメント】
エーザイでは、社外取締役が積極的に機関投資家や株主と対話を重ねているとのこと。株主・投資家からすると社外取締役の理解や認識を通して、当該企業の経営の実態を把握する助けになると思います。また、角田氏が述べているように、「中期経営計画のように3~5年の経営戦略を主導するのはCEOでいいと思うが、20年、30年先を考えたESG戦略は社外取が主導するという発想があってもいい」というのは正におっしゃる通りで、中長期の持続的な企業価値の向上というテーマは、短期業績をいかに上げるかという議論とは異なる文脈で語る必要があり、そうしたことを社外取締役に積極的に語ってもらうというのは、非常にうまい役割分担です。
4. 新型コロナが試すガバナンス、買収防衛維持に厳しい目線
【注目ポイント(記事一部引用)】
3月期決算企業の株主総会シーズンが迫り、株式市場で買収防衛策の導入企業に厳しい目が注がれている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う業績悪化で様々な企業が事業再構築を迫られているが、買収防衛策はそれを阻む恐れがあるためだ。投資家はコーポレートガバナンス(企業統治)の改善意欲を見極めようとしており、防衛策の継続を決めた企業の株価の戻りは鈍い。
【コメント】
買収防衛策自体は近年廃止にする企業が増えています。しかし、数年前に買収防衛策を廃止した川崎汽船が、その直後に村上ファンド系のファンドが同社株の大量保有を発表するなど、単に廃止するだけでは危険という実態は依然として存在します。昔から言われることではありますが、最大の買収防衛策は自社の企業価値を常に高めておくことです。資本効率の見直しや不採算事業の撤退、コーポレートがバンスの強化など、アクティビストが要求してくるであろう施策を、平時のうちから検討し、実施していくことも敵対的な買収を未然に防ぐという意味で効果的だと思います。
5. 世代交代が生む創業家発「内紛」 天馬で委任状争奪戦へ
【注目ポイント(記事一部引用)】
東証1部上場、プラスチック製造の天馬で創業家同士が対立する異例の事態が起こっている。海外での贈収賄事件を理由に創業者が経営陣退任を主張。株主総会で委任状争奪戦に発展する見込みだ。日本企業で相次ぐ創業家絡みの内紛。創業家の世代交代とアクティビストの活発化が背景にありそうだ。
【コメント】
創業家の世代交代やガバナンス不全、アクティビストによる関与と、天馬を巡る状況は混とんとしています。これまでの一連の騒動に関しては、結局委任状争奪戦に発展し、株主総会で決着をつけることになりそうです。しかし、どちらが勝利したとしても、あくまで一時的な決着に過ぎず、今後も問題はくすぶり続けるかもしれません。
6. オムロン元社長が遺した心得「成長はESGにあり」
【注目ポイント(記事一部引用)】
コロナショック後の株価の戻りが早い企業にはいくつかの特徴がある。強固な財務基盤、生活に不可欠な事業構成、そしてESG(環境・社会・企業統治)を重視した経営もその一つといえるだろう。制御機器や電子部品、ヘルスケアなど幅広い事業を手掛けるオムロンも、そうした「ESG先進企業」の代表格だ。
【コメント】
オムロンのESG重視の方針は、記事にもある通り、役員報酬の設計からも見て取れます。ESG指標を役員報酬の決定指標の一つに盛り込み、その結果によって報酬が変動する設計となっています。海外企業では役員報酬の設計にESG指標を導入する例は珍しくありませんが、日本ではまだソニーなど数社に留まります。今後ESG経営の取り組みの一つとして、役員報酬へのESG指標の導入が進むかどうか、注目しています。