ユーグレナのユニークな株式報酬制度とは?

ミドリムシを主に活用し食品や化粧品の販売、バイオ燃料の研究等を行っているバイオテクノロジー企業のユーグレナが新たに株式報酬制度の導入を発表しました。

ユーグレナ社はサステナブルな人事制度を目指し、新・報酬制度を導入します

会社側のリリースによると、一般従業員(正社員を対象)に対して、本人が希望する場合には報酬の一部を自社株式で受け取ることができるとのことです。

従業員向けの株式報酬制度の導入の背景

まず、今回、新たな株式報酬制度を導入することになった背景は以下のような考えがあるようです(青字はトランスフォームによる強調)。

当社は、多くのステークホルダ―と共に、ヘルスケア事業やバイオ燃料事業をはじめとした多様な事業領域を展開しています。ユーグレナ・フィロソフィーとして掲げる「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」という価値観を共有し、年齢、国籍、家族構成、経験、キャリア志向などが異なる多様な仲間が働いており、さらに、結婚、出産、介護などのライフステージの変化に合わせて、個人のワークスタイルが変化しています。これらの多様な人材のライフステージやワークスタイルの変化を尊重し、当社で働く仲間が、能力を発揮し、働きがいが持てる環境をつくることこそがサステナブルな人事制度であると考えています。これまでもキャリア志向とライフプランに応じて働き方を選択できる複線型の役割等級制度の導入や、自己実現のために退職する仲間のその後のキャリアをサポートするチャレンジバック制度の導入、ユーグリズムに沿ったカフェテリアプランの導入など、多様な人事制度を構築してきました。
そして今回、多様な人事制度の1つとして、報酬の一部を仲間本人の希望に合わせて、自社株式で受け取る事を選択できる新しい報酬制度を導入することとしました。この制度では自社株式の取得を促進するため、報酬の一部を自社株式で受け取る事を選択した場合、現金で受け取る選択肢と比べて割増した自社株式を支給します。仲間が自社株式を継続的・安定的に取得・所有することを通じて、株主および経営者と同様の視点を共有することで、中長期的な業績拡大及び企業価値の向上を目指します。

導入の背景のポイントとしては、以下の2つが挙げられます。

  1. 多様な人材に対する様々なライフスタイルの変化に応じたサステナブルな人事制度の1つとして導入
  2. 従業員が継続的・安定的に自社株式を取得・所有することで、株主・経営者と同じ目線を持ち、中長期の業績や企業価値の向上に努める

2については、株式報酬制度を導入する際によくある理由ではありますが、1は昨今、特に日本でもテクノロジー系企業では従業員を対象にした株式報酬制度の導入が増えています。2018年末にはメルカリが譲渡制限付株式報酬制度を、2019年2月にはLINEがストックオプションの付与を発表しました。

メルカリ「当社従業員並びに当社子会社の役員及び従業員に対する譲渡制限株式ユニット(RSU)付与制度の導入に関するお知らせ」

LINE「新株式報酬制度導入、および報酬ポリシー制定のお知らせ」

ユーグレナが、今回新たに従業員を対象とする株式報酬制度を導入するのも基本的には上記の企業と同じ目的だと考えられます。明確には記載していませんが、真の目的は、従業員の採用・リテンションの強化のためではないでしょうか。

株式報酬制度の特長

今回新たに導入する株式報酬制度は、正社員を対象としたものです。
ユーグレナには月給制社員と年俸制社員が存在するようですが、
月給制の社員には年2回の賞与に対して、年俸制の社員には業績連動部分に対して、
それぞれ自社株式での支給を「本人が希望した場合に」行うとしています。

なお、対象となる報酬を株式で受け取ることを希望した場合には、現金で受け取る場合と比べて割増した自社株式を支給するとしています。

この割増部分は、大変ユニークな仕組みといえます。
同じ報酬であれば現金よりも株で受け取った場合の方が、その時点ではメリットがあるということになります。
当然のことながら、株価は常に変動しますので、業績が悪化した場合には実質的に報酬減となります。
しかし、会社が今後持続的に成長すると考えるのであれば、現金ではなく株式で受け取った方が得です。
また長期間、株式報酬で受け取り続けることを選択した場合には、株価次第では、個人の資産形成面でも大きなメリットとなるチャンスといえるでしょう。

ところで、この制度の導入結果は、別の使用目的でも利用が可能です。
先述したように、今回の制度は「本人の希望」によって選択が可能です。
そのため、制度の適用を希望する社員の多寡によって、自社の将来性を信じる社員がどの程度存在するかがわかります。

このことは、自社の経営に対する信頼度を計ることにも使えますし、従業員の満足度も推測可能です。
また、業績や企業価値を上げていこうと社員がどの程度真剣に考えているかを示すバロメーターにもなり得ます。

このように考えると、経営者からすれば、従業員の状態を把握する際のツールとして使えます。
また、株主の立場であれば、経営者がどの程度、従業員からの信頼を勝ち得ているかを示すデータとしても活用できるでしょう。

ユーグレナは、今後、この制度を選択した社員の数や全体に占める割合などのデータによって、上記のように様々な分析や活用が可能です。報酬データを採用やリテンションの強化、株主との利害共有など本来の導入目的の目的にのみ使用するのではなく、経営のための重要なデータの入手にも使える点は非常に面白い取り組みといます。株価にも影響を与えかねないデータでもあり、外部への公表は難しいとは思いますが、何らかの形で結果を共有頂けることを期待しています。