ランサーズが指名・報酬委員会を設置。東証マザーズ上場企業の指名・報酬委員会の設置状況は?

1.はじめに

クラウドソーシングサービス大手のランサーズが、9月14日に指名報酬委員会の設置を発表しました。

指名報酬委員会の設置に関するお知らせ

こちらの記事で解説したとおり、既に東証一部上場企業では過半数の企業が指名・報酬委員会を設置済みのため、同じく上場企業であるランサーズが指名・報酬委員会を設置すること自体は不自然ではありません。一方、マザーズ上場企業で、指名報酬委員会を設置している企業は少数に留まるのが現状であり、そうした中で、同社の今回の決定は注目に値します。
そこで、今回はランサーズの設置する指名報酬員会の概要を取り上げると共に、マザーズ上場企業の指名・報酬委員会の設置状況についてに解説していきます。

2.ランサーズの指名報酬委員会の概要

会社リリースでは、今回設置する指名報酬委員会の役割として、以下のように記載されています。

取締役会の諮問機関として、次の事項について審議し、取締役会に対して答申を行います。
(1)取締役の選任・解任(株主総会決議事項)に関する事項
(2)代表取締役の選定・解職に関する事項
(3)役付取締役の選定・解職に関する事項
(4)取締役の報酬体系・方針、個人別報酬等に関する事項
(5)取締役の報酬限度額(株主総会決議事項)に関する事項
(6)後継者計画(育成を含む)に関する事項
(7)執行役員の選定・評価に関する事項
(8)その他経営上の重要事項で、取締役会が必要と認めた事項

対象としては、代表取締役を含む取締役の選解任に関する事項と取締役の報酬に関する事項を網羅していることから、一般的な指名報酬委員会の機能を満たしていることがうかがえます。

また、指名報酬委員会の構成としては、以下のように規定しています。

指名報酬委員会の委員は、取締役会の決議によって選任された3名以上の取締役で構成し、その過半数は独立社外取締役とします。なお、常勤監査役をオブザーバーとしております。

ランサーズの取締役会は、現在は以下の4名で構成されています。
このうち2名が独立社外取締役であるため、指名報酬委員会の構成としては、岡島氏・加藤氏の2名の社外取締役+社内取締役1名(秋好社長 or 曽根取締役)となるようです。

上記を踏まえると指名報酬委員会の構成としては社外取締役が過半数以上となるため、一定の独立性を有した委員会の構成と考えられます。なお、指名報酬委員会の委員長を誰が務めるかについての言及はありませんでした。仮に委員長も社外取締役が務めるということであれば、外形的には高い独立性を備えた指名報酬委員会といえるでしょう。

3.東証マザーズ上場企業の指名・報酬委員会の設置状況

冒頭でお伝えしたように、東証一部上場企業では、既に指名委員会・報酬委員会を設置している企業はそれぞれ50%を超えています。比較的ベンチャー・スタートアップ企業が多い東証マザーズ上場企業においては、その設置状況はどの程度でしょうか。

ここでは比較のためにJPX日経400、東証一部と並べて確認してみましょう。
まずは、指名委員会の設置状況です。

出所:東京証券取引所 東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況(2020年9月7日)

CEOや取締役の指名に関わる指名委員会の設置状況は、マザーズでは28社、8.6%と極めて低い設置率であることがわかります。任意の諮問委員会の活用がまだ進んでいないことに加えて、マザーズ上場企業の多くがベンチャー・スタートアップ企業など比較的歴史が浅い企業であり、CEOも若い現役世代であること、今後も中長期的に経営者の交代を想定していないため、指名委員会を積極的に設置しなければならない必要性・緊急性が乏しいという理由が考えられます。

続いて、報酬委員会の設置状況についてみていきましょう。

出所:東京証券取引所 東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況(2020年9月7日)

指名委員会と同様に、報酬委員会の設置率は45社、13.8%とこちらもまだ低い水準に留まります。しかし、指名と比べると報酬委員会の方が、わずかに設置率が高いことがうかがえます。ベンチャー・スタートアップ企業のうち、特にテクノロジーを活用したサービス展開を行う企業では、優秀人材の採用・リテンションの強化の観点から、役員だけでなく従業員も含めた株式型の業績連動報酬の導入に積極的です。こうした背景もあり、指名に比べると報酬委員会の設置率が高いと推察されます。

4.終わりに

今回は、指名報酬委員会の設置を発表したランサーズの指名報酬委員会の概要と、東証マザーズ上場企業における指名・報酬委員会の設置状況について解説しました。
2022年を予定している東証の市場改革に伴い、新たに設置される各市場では、それぞれコーポレートガバナンスコードの適用範囲が決定され、予定では現在よりも高度なレベルが求められるとされています。そのため、現在は低い水準に留まっているマザーズ上場企業の指名委員会・報酬委員会の設置は徐々に増えてくることが予想されます。今後、マザーズ上場企業の多くを占めるベンチャー・スタートアップ企業においても指名・報酬委員会の設置について検討を行う企業が増えてくるでしょう。