コーポレート・ガバナンスニュース(2020/8/13)
本日は、以下の3つの記事について取り上げます。
- 米カーライル、日本に1兆円超投資へ 企業再編増にらむ
- 2020年3月期決算 上場企業2,034社 「外国法人等株式保有比率」調査
- 親子上場問題に関する考察
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1.米カーライル、日本に1兆円超投資へ 企業再編増にらむ
【注目ポイント(記事一部引用)】
米大手投資ファンドのカーライル・グループは日本企業に1兆円超を投じる。新型コロナウイルスで社会構造が変わり、大企業の事業切り出しや上場企業の非公開化といった再編が増えるとみている。1件で数千億円に達する大型投資にも対応できるようにする。
【コメント】
こちらで解説したように、経産省が発表した事業再生実務指針が発表されたことも後押しとなり、今後特に大企業の事業ポートフォリオの見直しは進むとみられています。そうした中で、子会社や事業売却の受け皿としてPEファンドの果たす役割は大きいでしょう。ファンドに売却された企業や事業が、ファンド主導で経営改善が行われますが、その中には当然コーポレートガバナンスも含まれます。そのため、今後大企業だけでなく、その子会社や事業(を切り出した後の新会社)のコーポレートガバナンス強化はより一層進むはずです。
2.2020年3月期決算 上場企業2,034社 「外国法人等株式保有比率」調査
【注目ポイント(記事一部引用)】
2020年3月期決算の上場企業2,034社で、外国法人等株式保有比率(以下、外国法人等比率)が2年連続で低下したことがわかった。
上場企業2,034社の外国法人等比率の中央値は9.46%で、前年同期(9.55%)より0.09ポイント低下した。調査対象の2011年同期から7年連続で上昇していたが、2019年同期に初めて低下し、2年連続の低下となった。
産業別では、外国法人等比率の最高は、電気・ガス業の16.50%(前年同期17.58%)。最低は、小売業の3.68%(同5.05%)で、前年同期より1.37ポイント低下した。
【コメント】
調査結果によると、外国法人等の3月期決算の上場企業に対する保有比率はの2018年3月期の9.67%以降、2019年は9.55%、2020年は9.46%と、高止まりしているようです。日本の株式市場においては、外国人株主の存在は極めて重要です。そのため、先日外為法を改正した際にも、あくまで安全保障上の懸案の解消が改正の理由として掲げられていましたが、アクティビストを含め海外投資家に敬遠されるような事態にならないよう配慮しているようにみえます。海外の株主比率が高まることの効用としては、日本企業にもグローバルスタンダードな経営を要求する声が高まり、良くも悪くも合理性のない「日本独自」の取り組みは後退していきます。コーポレートガバナンスの分野においても社内の業務執行取締役が中心の取締役会が、社外取締役を中心としたものに変化したり、主に固定現金報酬によって構成されていた役員報酬が、業績連動型の株式報酬を中心としたものへ変化するなど、今後も大きく変化していくはずです。
3.親子上場問題に関する考察
【注目ポイント(記事一部引用)】
『別冊商事法務No.452 親子上場論議の現在地点――グループガイドラインとアスクル・ヤフー事件の検証――』は、法学者、実務家、そして、当該事案の関係者による総括資料であるが、これを単なる悲劇の回顧録としてはならない。本件を契機とし、日本がコーポレート・ガバナンス先進国に脱皮するためには、上場会社の支配的株主の責任を正面から制度化する必要があり、本書はその立法事実の裏付けとなる重要資料である。
【コメント】
昨年注目を集めたヤフーとアスクルのガバナンス問題に関する経営競争基盤の冨山和彦氏の論考です。今回の論考では、上場企業のコーポレートガバナンス問題で、これまで一般少数株主の権利保護に焦点を当てて議論がなされてきたものの、一方で「支配的株主の義務・責任」については俎上に挙げられることが極めて限定的であったことが指摘されています。また、結果的にそのことが、会社法上で上場子会社における支配的株主が負うべき義務と責任が規定されない事態を長年放置することとなり、ヤフー・アスクル事件に繋がったというのはその通りだと思います。親子上場におけるコーポレートガバナンスの在り方については、2019年6月に経済産業省から公表された「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」によって具体的な取り組み内容が規定されています。今年の株主総会でも親子上場企業間における経営権争いが、CEホールディングス vs 駅探やコロワイド vs 大戸屋と複数企業で出たこともあり、依然重要度の高いテーマです。来年度改訂が予定されているコーポレートガバナンスコードにも何らかの形で反映される可能性があります。