コーポレート・ガバナンスニュース(2020/7/31)
本日は、以下の3つの記事について取り上げます。
- ジェイユーラスIR岩田氏「変革企業だけが生き残る」
- 筆頭株主のエフィッシモ、東芝株を一部売却
- 三菱ケミカル小林会長「東芝の再建成功、奇跡に近い」
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1.ジェイユーラスIR岩田氏「変革企業だけが生き残る」
【注目ポイント(記事一部引用)】
新型コロナウイルスの感染拡大は上場企業の情報開示(IR)にも大きな影響を与えている。合理的な将来予測ができないとして、業績予想の開示を見送る企業が続出し、経営者は中長期的な計画立案に頭を悩ます。ガバナンス(企業統治)やIRのコンサルタントであるジェイ・ユーラス・アイアール(東京・千代田)の岩田宜子代表取締役は「創造的に変革できる企業かどうか、投資家は厳格に見極め選別する」と強調する。
【コメント】
取締役会評価などで著名なコンサルタントである岩田氏のインタビューですが、記事にもある通り、これだけ投資家が企業のESGに関しての取り組みに注目する中で、取締役会にESG関連の専門性を持つ人材がいないのは問題です。単に環境や人権問題に対処するということではなく、岩田氏の言葉通り、ESGへの対応とは「将来のリスクへの検証と対応」です。企業を取り巻くリスクをどのように捉え、現在および将来の社会問題の解決にどのように自社が取り組んでいくか、その上でどのように成長の道筋を描くかを、取締役会で議論し積極的に情報発信することが求められています。また、日本企業の取締役会にESG関連の専門性を備えた人材を増やすことだけでなく、そうしたことを十分議論するために、現在の取締役会の議案や審議スタイルなども今後見直しが必要と思います。
2.筆頭株主のエフィッシモ、東芝株を一部売却
【注目ポイント(記事一部引用)】
投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは30日、保有する東芝株の一部を売却したと発表した。保有割合を従来の15.36%から9.91%に下げた。31日に開かれる東芝の定時株主総会でエフィッシモは同社創業者の今井陽一郎氏を選任するよう提案している。ただ、現状の保有割合で選任された場合、東芝の取締役基準に抵触する恐れがある。経済産業省などの事前審査をクリアする必要もあり、一部売却を決めた。
【コメント】
先日、こちらのニュースで取り上げた改正外為法に基づくエフィッシモへの事前審査ですが、報道によると無事にクリアしたようです。その条件の1つとして、エフィッシモの東芝株の保有比率を10%未満にする必要があったことから今回の売却に繋がったとのことです。今回の事前審査は、外為法改正後の最初のケースだけに、その結果が注目されていました。経産省としては、制度に則って粛々と事前審査を行うというスタンスを示していましたが、健全な株式市場環境を維持するためにはアクティビストを排除できない(したくない)という一方、外為法改正の目的である国の安全保障の維持とのバランスに苦慮したのだと思います。いずれにしても、これで今回の東芝の取締役選任を巡る会社側とエフィッシモ側との対決は、本日の株主総会で決着を迎えます。
3.三菱ケミカル小林会長「東芝の再建成功、奇跡に近い」
【注目ポイント(記事一部引用)】
東芝の社外取締役で取締役会議長を務める小林喜光氏(三菱ケミカルホールディングス会長)は31日の株主総会をもって退任する。不正会計問題が発覚した2015年から関わってきた小林氏は日本経済新聞の取材で「東芝がよみがえったことは僕にとっては奇跡に近い」と振り返った。
【コメント】
東芝の取締役会議長を退任予定の小林氏のインタビューですが、奇跡という言葉からは、危機にあった東芝を立て直すために、取締役会議長として苦心されたことが見受けられます。社外取締役が務める取締役会議長が危機にある企業の立て直しをリードするというのは、海外企業でも成功事例はそれほど多くなく、最も難易度の高い経営改革の1つではないでしょうか。今後、コーポレートガバナンスの強化に伴い、取締役会のあり方が変化していく中で、取締役会議長の存在や果たす役割に注目が集まると予想しています。その際に、今回の小林氏の東芝の取締役会議長としての取り組みは一つのモデルケースとなるかもしれません。