コーポレート・ガバナンスニュース(2020/7/30)

本日は、以下の3つの記事について取り上げます。

  1. 日本のCEO報酬、2割増の1億9000万円 19年度
  2. 多様化だけでは機能せず 社外取締役制度の課題
  3. ESG投資時代の情報開示

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1.日本のCEO報酬、2割増の1億9000万円 19年度

【注目ポイント(記事一部引用)】
上場企業の経営者報酬が増えている。ウイリス・タワーズワトソンの2019年度の調査によると、主要企業の最高経営責任者(CEO)の報酬額は前年度比20.5%増の1億9千万円だった。株式報酬が押し上げた。総額3億円以上を支給した企業も18社に増えた。20年度は新型コロナウイルスの拡大で業績が悪化しており、報酬を見直す動きが出てきそうだ。

【コメント】
日本企業の社長の報酬が上昇しています。以前に下記の記事で解説したように、役員報酬のあり方が「生涯に渡っての役員経験者としての処遇」から「役員としての地位にある現在の役割・責務に対して報いるもの」として位置付けが変更されたこと、その結果、これまで(ほぼ)存在しなかった業績連動報酬が新たに付与されるようになったことから、今後も経営者報酬の水準は徐々に上がっていくはずです(一方で、足元はコロナ禍の業績悪化を理由に多くの企業で役員報酬の減額が発表されており、今年から数年はむしろ下がる可能性の方が高いと考えます)。

 

参考記事

コーポレート・ガバナンスニュース(2020/7/19)

 

2.多様化だけでは機能せず 社外取締役制度の課題

【注目ポイント(記事一部引用)】
最近の企業統治における制度改革では、社外取締役の多様性が注目されているようだ。経営学では、多様性の導入が役員会の活性化を招く、といった単純な考え方はしない。それぞれの企業個別の改革の内容や進め方と制度・慣行の影響をセットとして、その効果との補完関係を、実証研究のなかで注意深くとらえる必要がある。

本稿では、日本の上場企業の多様な属性をもつ社外取締役の役割について、面接によるデータと既存のデータの質的比較分析(fsQCA)などを行った検証をお伝えする。中でも、性別に焦点を当てた結果を紹介する。これはシンガポール経営大学の好川透教授、さらにビジネススクールINSEADのマイケル・ウイット教授も加わった共同研究の米国経営学会での報告に基づいている。

【コメント】
この分析結果が示している日本企業の社外取締役導入後の機能不全の「負のサイクル」は、実態としてある程度正しいと思います。社外取締役で招かれる候補者の多くが、経営者と親しい関係にあり、「経営者に招かれる」形で社外取締役を務めているというのが多くの日本企業の実態でしょう。社外取締役については量・質ともにまだまだ改善の余地があり、欧米諸国のように社外取締役の人材市場が十分に発達していない現状においては、試行錯誤を重ねる以外に手はありません。まずは取締役会として必要な専門性や要件を明確化し、その上でそれぞれの分野に長けた人材をリサーチしていくことが最初の一歩となります。誰もが思いつくであろう、こうした取り組みですら意外なことに実施していない企業の方が圧倒的に多いのです。

 

3.ESG投資時代の情報開示

【注目ポイント(記事一部引用)】
ESG投資を巡るグローバルな動きが急加速している。欧米ではESG投資の広がりに応じて、当局による環境整備が急ピッチで進められている。わが国でも今年3月には、機関投資家にESG要素の考慮を促すスチュワードシップ・コードが改訂されるとともに、東京証券取引所も上場会社向けにESG情報の開示の仕方についてハンドブックを公表した。

【コメント】
最近では統合報告書を公表する企業も増えており、そうした企業では必ずESGに関する自社の取り組みを開示していますが、記事にもある通り、投資家・株主に対して「魅力が伝わるように」情報開示出来ている例は多くありません。コーポレートガバナンスに関してもそうですが、グローバル企業では自社がいかに先進的な取り組みを行っているかを(多少の誇張を踏まえながら)アピールしているのに対して、日本企業ではしっかりと取り組んでいるにも関わらず、実態を表に出すことに消極的です。過去にご支援したある企業では、株主である機関投資家から社長交代に伴う選考過程を尋ねられ、指名委員会での社外取締役を含めた議論の過程や社長交代に伴うサクセッションプランを時間を掛けて取り組んだことを説明したところ、強い関心を持たれた一方で、そこまでの取り組みを行ったのであれば是非詳細を開示すべきだという意見が出たことがありました。これは一例ですが、投資家サイドからすると企業の発表以外に判断をする材料がない以上、しっかりとした実態があっても情報がなければ取り組んでいないことと同義になってしまいます。取り組みは取り組みで行いつつ、株主・投資家に対してのメリットをきちんと伝えることも、とても重要なことです。