コーポレート・ガバナンスニュース(2020/5/29)

本日は、以下の4つについて取り上げます。

  1. 物言う株主にコロナの受難 ハーツ破綻、毒薬条項も
  2. 「物言う株主」に対照的な対応をしたキリンとソフトバンク、日本企業の異質な構造
  3. アックマン氏、バークシャーやブラックストーンへの投資引き揚げ
  4. 天馬、米ファンドから取締役 6月総会で提案

1. 物言う株主にコロナの受難 ハーツ破綻、毒薬条項も

【注目ポイント(記事一部引用)】
大物アクティビスト(物言う株主)が相次いでコロナ禍の受難に見舞われている。22日に経営破綻した米レンタカー大手のハーツ・グローバル・ホールディングスの大株主は物言う株主として知られる米著名投資家のカール・アイカーン氏だ。国内では旧村上ファンド出身者が設立したエフィッシモ・キャピタル・マネージメントの一部保有株の売却が明らかになった。物言う株主の苦境が広がれば、株式市場の新陳代謝機能が低下し、成長を促す中長期の投資マネーが流出する可能性がある。

【コメント】
記事のトーンとしては、アクティビスト全体が苦境に陥っているような印象を受けますが、一部コロナ禍の株価低迷で影響を受けたケースはあるものの全体としてみればあくまで限定的です。むしろ、今後より企業業績に影響が出始めると株価が下がり、アクティビストとしては従来よりも割安に株価を取得できるため、虎視眈々とそうした状況を狙っているファンドは多いように思います。

2.「物言う株主」に対照的な対応をしたキリンとソフトバンク、日本企業の異質な構造

【注目ポイント(記事一部引用)】
キリンホールディングス株式会社(以下、「キリン」)とソフトバンクグループ株式会社(以下、「ソフトバンクG」)が今年3月に取った「アクティビスト(物言う株主)」への対照的な対応は、新型コロナ危機がもたらした予想できない変化の中で、日本のコーポレートガバナンス(企業統治)の現状を切り取ったスナップショットのようである。

【コメント】
2000年代中盤、スティールパートナーズや村上ファンドが企業にアクティビスト活動を行っていた時には、アクティビスト=悪、という極端な構図がまかり通っていました。コーポレートガバナンスコードの施行以後、アクティビストだからというよりもその提案の中身によって是々非々で判断する企業が現れてきたのは、よい兆候と思います。記事で取り上げられているキリンHDとソフトバンクの例は対照的ではありますが、今後もアクティビストの活動自体は活発さを増していくでしょうし、企業側にとっては単にうるさい株主と捉えるよりも、自社の経営改善の機会と捉え、アクティビストと強調するケースも増えると思います。

3.アックマン氏、バークシャーやブラックストーンへの投資引き揚げ

【注目ポイント(記事一部引用)】
アクティビスト(物言う投資家)のビル・アックマン氏は米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイや、ブラックストーン・グループ、パーク・ホテルズ・アンド・リゾーツへの投資を解消したと、27日の電話会議で明らかにした。

【コメント】
記事の末尾にあるように「パーシングは新型コロナウイルス感染拡大の影響からポートフォリオを守ろうと、クレジット市場での空売りでヘッジ。その後、ヘッジの解消に伴い約26億ドル(2800億円)を得た。当初投資額の約100倍に相当するこのリターンは、投資対象企業の価値減少分を埋め合わせるのを助けた。」と、一部で損失は出ていたとしてもこのように巨額のリターンを得ているケースでは、今後はむしろ絶好の投資機会として虎視眈々と割安企業の株を買い増していくでしょう。

4.天馬、米ファンドから取締役 6月総会で提案

【注目ポイント(記事一部引用)】
プラスチック製造を手掛ける天馬は27日、「物言う株主」とされる米投資ファンド、ダルトン・インベストメンツグループから取締役を招くと発表した。同グループ傘下のダルトン・アドバイザリー代表取締役、林史朗氏の選任議案を6月の定時株主総会に提出する。天馬はベトナム子会社の贈賄疑惑を巡り、第三者委員会から企業統治の機能不全を指摘されている。外部の目を入れることで、経営の透明性向上やコスト削減などの取り組みを加速する。

【コメント】
ガバナンス不全を指摘され、前名誉会長の解任騒動にまで発展していた天馬ですが、アクティビストのダルトンから取締役を受け入れるようです。アクティビストからの取締役受け入れは徐々に増えてきていますが、他には下記のような例があります。

オリンパス←バリューアクト・キャピタル・マネジメント
川崎汽船←エフィッシモ・キャピタル・マネジメント

なお、富士通もアクティビストではありませんが、投資ファンドの産業創成アドバイザリーの阿部氏を社外取締役(取締役会議長)として迎えています。ファンド側との協調路線を取った方が、市場からの評価や経営改善上もプラスになるという判断をする企業が増えており、今後も日本の大企業で同様の事例が出てくると思います。